辻邦生の長篇小説、『樹の声・海の声』。上・中・下3冊に分かれた単行本を買ったのは長野の古書店だった。
当時、私は北関東信越地区を担当する仕事をしており、長野支店へ行った際に立ち寄った古書店にあった。
外箱の装丁が凝っていて、中の本の表紙も薄緑色で綺麗な状態だったので、一目で気に入ってすぐに購入した。
上巻の帯の裏を見ると「いままで実在の人物を小説に書いたことのなかった私が、なぜ『樹の声・海の声』において実名を出すだけではなく、実在の資料をそのまま生の形で作品の中に使うのか」と書いてある。
その記述のとおり、この小説は、明治・大正・昭和を通じて実在した女性の人生をもとに描かれている。
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| 『樹の声・海の声(中)』(朝日新聞社、1982年) |
中巻の帯には「私がほしかったのは、本当の自由。生きるって素晴らしい、と思いたい……」と書かれている。
主人公の女性の人生を通して、懸命に人生を生きようとする人間の姿を辻邦生は描こうとしたのだろう。
私は辻邦生が好きで作品をかなり読んだが、一度きりの人生を大切にするというテーマは一貫していた。
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| 『樹の声・海の声(下)』(朝日新聞社、1982年) |
下巻の帯に「燃える恋のあとに知った真実の愛ー パリからワルシャワへ、そして祖国へ。」と書かれているとおり、小説の舞台は日本にとどまらない。
ヨーロッパで活躍する美しい女性の波乱に富んだ人生が描かれており、読んだ時にとても面白かった記憶がある。
しかし、原稿用紙3300枚の長篇小説であり、持ち歩きに不向き箱入りの単行本は、今ではあまり流行らない。
私も再読することはないので、まちライブラリー(注)へ寄贈することした。その方が本にとって幸せだろう。
(注)知命庵: まちライブラリー(クリックすると飛びます)



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