2025年7月16日水曜日

鯖街道③

現在、滋賀や京都で食べられている鯖の多くは、「鯖街道」の起点の若狭湾よりも、国内の他の産地やノルウェー産のものが多いと聞いた。
このことを教えてくれた株式会社アクアステージの大谷洋士社長は、滋賀県の山中で海水魚(トラフグ、ヒラメ、マサバ等)の完全閉鎖型陸上養殖を手掛けている。立命館大学の総合科学技術研究機構の客員教授もしていて、フードテック(注1)に詳しい。大谷社長が開発した換水の必要がない飼育システムを使えば、アニサキス等の寄生虫の心配がない鯖の養殖が可能になるという。
甲賀で廃校となった校舎を借りて鯖を養殖し、クラウドファンディングを活用して海なし県(注2)の湖(うみ)なし市(滋賀県甲賀市は琵琶湖に接していない)が産地の「鯖寿司」として販売することを計画している。仮に「鯖街道」がかつて通っていた朽木あたりに廃校があって、それを利用して鯖を養殖できれば、「鯖街道」の復活と言ってもいいかもしれない。

(注1)食に関する最先端技術のことで、農林水産省は令和2年10月に産学官連携による「フードテック官民協議会」を立ち上げている。
(注2)海あり県のこともあった。『一二歳から学ぶ滋賀県の歴史』(滋賀県中学校教育研究会社会科部会編、サンライズ出版、2005年)によれば、廃藩置県後の1876年8月、滋賀県に福井県西部にあたる敦賀郡などが編入され、1881年2月に分離されるまでの5年間、滋賀県は日本海に面した県であった。

「鯖街道」という言葉には、人の想像力を掻き立てる魅力があるのだろう。今回、いろいろと資料を探していて、つかこうへいが亡くなった後に発見された、未発表作『小説&戯曲 鯖街道』(トレンドシェア、2011年)があることを知った。
一介の鯖担ぎ、すなわちカイドカセギから財閥の長にまで成り上がった人物の息子が主人公であり、五・一・五事件をからめて、冬場の「鯖街道」の寒さを理由に陰惨な物語が繰り広げられる。
小説には「特に冬の針畑峠の寒さと塩で身をひきしめられた冬の鯖はまた格別に美味しく、あの天子様でさえ隠れてお口になさると、まことしやかに囁かれておりました」というくだりがある。

想像を絶する寒さの中を鯖担ぎたちは京都へ向かったのに違いない。そのようにして届けられた鯖が絶品として珍重されたことに人間の欲深さを感じた。
さらに、元AKBの演歌歌手である岩佐美咲が、2017年1月のAKB卒業後に初めて発売したシングルが「鯖街道」であることもわかった。
秋元康が作詞を手がけ、「京は遠ても十八里」も歌詞に出てくる。恋人と別れた女性が一人で鯖街道を京都へ向かうという設定であり、人の気持ちを鯖にたとえて「腐りやすい」とする等、さすがは秋元先生である。

岩佐美咲の『鯖街道』youtubeより

いつかまた「鯖街道」沿いの「比良山荘」で「月鍋」に舌鼓を打ちたい。滋賀県産の「鯖寿司」とセットであれば最高の御馳走になることは間違いない。

(2021年6月6日)



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