2025年6月13日金曜日

チェ・ゲバラ

『ゲバラ最期の時』の最終頁より

 ゲバラの生誕(1928年6月14日)から97年が経過した。1928年は昭和2年で、大正15年(昭和元年)生まれだった亡き父とほぼ同い年である。1959年7月にゲバラは訪日し、私の故郷の広島も訪問した。私はもう少し前に生まれてゲバラに会いたかった。
 ゲバラはアルゼンチン生まれの革命家で、医学生だったが革命に身を投じ、カストロと出会いキューバ革命を成功させる。しかし、キューバを離れ、最後はボリビアで銃弾に倒れた。1967年10月9日、享年39歳であった。 
 ゲバラの本名は「エルネスト・ゲバラ」で、「チェ・ゲバラ」の呼び名は、ゲバラが初対面の相手に「チェ」(スペイン語で「ダチ」といった砕けた呼び掛けの言葉)と挨拶していたことから付いたあだ名であり、それだけでも彼の人柄がわかる。戦闘帽を被った顔の写真はTシャツなどに使われ、若者の間でも人気がある。

 ゲバラの名前は知っていたが、革命家のイメージしかなかった。ところが、ある人から海堂尊(かいどうたける)の『ポーラースター1 ゲバラ覚醒』(文春文庫、2019年)が面白いと勧められ、読んでみて印象が変わった。海堂尊は巻末の女優の鶴田真由との対談「ゲバラは旅で成長した」の中で、次のとおりゲバラについて語る。
 「若き日のゲバラは、女性がいたら口説いてしまうような普通のあんちゃん。そういう若者が、いろんな経験をしてストイックな英雄になっていって、きっと苦しい思いもしたんだと思う」。一方の鶴田真由も「ゲバラはもともとはヒッピー的な要素を持っている人ですよね。文章を書くことがすごくお好きだったみたいですし。革命家じゃなかったらアーティストになっていた人だと思います」と言う。
 この本でのゲバラは無茶苦茶もてる。「やっぱりみんな、ゲバラに会うと恋しちゃうんですよね。実際に口説かれたかどうかは分からないけど、やっぱり優しい言葉をかけてもらって、『私は今、ゲバラに口説かれたんだわ』って思っている人がいたるところにいるなんて素敵です」と鶴田真由は対談で述べている。

 元衆議院議員で郵政改革担当大臣などを歴任した亀井静香はもっとも尊敬する人物としてチェ・ゲバラを挙げている。警察官僚出身であることから、革命の指導者であったゲバラを尊敬するということには違和感があった。
 しかし、亀井が警察官僚を退官し国会議員を目指したのは世の中を変えようと思ったからであり、その点はゲバラと共通するものがある。
 ルポライターの大下英治は『亀井静香 天馬空を行く(てんばくうをゆく)!』(2010年、徳間書店)の中で、自らを奮い立たせる亀井の気持ちを次のとおり記した。
〈自らを捨て、苦しむ民衆の救済に身を捧げたゲバラこそが、本当の政治家の姿だ。おれも、このまま終えるわけにはいかない〉

 ゲバラに関する映画の上映をきっかけに出版された『ゲバラ最期の時』(2009年、集英社)は作家戸井十月(といじゅうがつ)による渾身のドキュメンタリーである。
 その中で、ゲバラの遺体発掘について次のように触れられている。ゲバラの遺体は共同墓地の傍らに埋められ、1997年6月28日、死後30年を経て発掘された。7月12日、ゲバラの遺骨がボリビアからキューバに運ばれ、キューバは国を挙げてゲバラを迎えた。10月11日からの1週間が「ゲバラ追悼週間」と決められて棺が一般公開され、270キロのパレードをした後に遺骨が納骨堂に納められた。追悼週間の最終日の式典でカストロは次のとおり演説した。

〔私たちは、チェと、その同志たちに別れを告げに来たのではなく、出迎えのために来たのです。チェは、道徳の巨人です。彼のように純粋で、真の尊敬に値する人間の存在は、腐敗した政治家や偽善者がはびこる今こそ、より一層際立って見えます。チェの理想が実現していたら、世界は違ったものになっていたでしょう。
 戦士は死ぬ。しかし、思想は死なない。チェは、全世界の貧者の象徴として永遠に生き続けるでしょう。(後略)〕

 また、戸井十月は本の終わりに次のとおり書いている。
「死して41年。今なお人々の中で生き、歩き続けてる男が最も簡潔に、そして少しだけヒロイックに自分自身を表現している言葉を、この本の最後に置く。

〔もし我々が空想家のようだと言われるならば
 救いがたい理想主義者だと言われるならば
 できもしないことを考えていると言われるならば
 何千回でも答えよう

 そのとおりだ、と〕


2 件のコメント:

匿名 さんのコメント...

ゲバラは広島に来てたのですね。感慨深い情報です。1959年生まれの私には伝説の人であり生き様に憧れました。高校時代寮生活をしており深夜に同級生とキューバ革命や中国共産党を訳わからず語り合いました。今でも少年の心としてゲバラでありたいと思ってます。

大鯰 さんのコメント...

私と同い年ですね。寮生活ですか。ありがとうございます。