ナチズムが席巻するヨーロッパを逃れてアメリカ大陸に亡命したツヴァイクは、第二次世界大戦勃発を目にして、ホテルの一室でただ記憶だけを手がかりにして本書を書き上げ、自ら命を絶った。
『昨日の世界』の一節に次のような記述がある。
「人が自分の人生から忘れ去るすべては、元来、内面の本能によってずっとそれ以前にすでに忘れ去るように定められたものなのである。ただみずから残ろうとする回想だけが、ほかのさまざまな回想にかわって残される権利を持つ。」
つまり、人は記憶しなければいけないことは記憶している。逆に言えば、記憶していないことは記憶しなくてもいいことである。
記憶が自らの都合のよいように書き換えられることはある程度仕方がないとしても、そういうことなのだろうと思う。
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